【Z・CD特別情報16】
シューマン:子供の情景
~ピアノ:マルタ・アルゲリチの至芸~
クライスレリアーナ
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(演奏・録音:A)
シューマンは1810年6月8日、ツヴィッカウにて誕生。
ツヴィッカウ(Zwickau)は、現在ドイツ連邦共和国のザクセン州ケムニッツ行政管区に位置する都市。 同州において、ツヴィッカウは、ドレスデン、ライプツィヒ、ケムニッツに続いて第4の規模となる都市。
シューマン(1810−56)と同時代には、ショパン(1810−49)を始め、リスト(1811−86)などの多彩な作曲家で溢れていた。
しかし、当時のフランクフルトやライプツィヒの演奏会の作品は、ベートーヴェンが死んだ1827年の後でも、当時はサロン作曲者のヘルツやヒュンテンなどの作品が演奏されていたという。なんと保守的な音楽状況であったことであろうか。そのような状況に異をとなえて、シューマンは「音楽新報」で評論家活動もした。
ショパンやリストがウイーンやパリで活動していたのに対して、シューマンはライプツィヒ・ドレスデン・デュッセルドルフなどが主な活動の拠点であった。38歳の時に、シューマンはウイーン移住を試みたが「音楽新報」の出版が困難であったところから、移住を断念した。
シューマンのピアノ作品は個性にあふれている。シューマン自身は22歳で「指を痛めて」作曲家に転向するまではピアニストを志していたし、身内には優秀なピアニスト、才女であり妻のクララ・シューマンがいたので、シューマン自身が自作ピアノ曲の試奏する必要はなかったと同時に、クララの意見も取り入れたのではないだろうか。
シューマンは28歳の時に、30曲ほど作った小品の中から、12曲を選び出して『子供の情景』作品15と名付け、最後に終曲(第13曲)「詩人は語る」を付け加えた。
出版は1839年2月にライプツィヒのブライトコプフ・ウント・ヘルテル社より。
この時代、フォルテ・ピアノの普及により、家庭でも演奏されるフォルテ・ピアノの楽譜が出版され、作曲家は出版からの収入で生計を立てる事が可能となっていった。
作曲家がパトロンからの支援だけでなく、作曲で自立することができる時代へと推移してゆく。これはベートーヴェン以来の新しい作曲家像である。
シューマンは後に、『子供のためのアルバム』作品68や『子供のための3つのピアノソナタ』作品118など、子供の学習用のピアノ曲を作曲しているのはそのためである。
作曲者本人の語るところによると、『子供の情景』はそれらの作品とは異なる「子供心を描いた、大人のための作品」である。であるから『子供の情景』ではかなり高度な作曲技法が駆使されており、日本のピアノ教育で楽譜の簡便さから子供の初期のピアノ練習に『子供の情景』を使用するのは誤りであるが、そのような自覚を持つピアノ教師は日本では皆無である。アルゲリチの『子供の情景』の優れた演奏CDを紹介するのは、完成度の高い演奏を聴いて欲しいからである。
日本のピアノ教育がヨーロッパに遅れをとり、ショパンコンクールなどの国際コンクールで日本人が優勝できない理由の一つは、初期のピアノ教育においてピアノ教師が無知であるために、「楽譜に忠実な演奏が全てに優先するという間違った教育方針に捕われているためである」、と筆者は考えている。
『子供の情景』 は全13曲からなり、標題がそれぞれ付けられている。
・第1曲 見知らぬ国と人々について ト長調、4分の2拍子「異国から」とも。全体はA-B-Aのリート形式(または3部形式)に
よる。左手内声はBACH音型が見られる。
・ 第2曲 不思議なお話 ニ長調、4分の3拍子「めずらしいお話」とも。16分音符による快活な曲。
・第3曲 鬼ごっこ ロ短調、4分の2拍子16分音符のスタッカートであるが、遊びに夢中になっている子供を表現しているという。テンポは4分音符=120でまとめられる。
・第4曲 おねだり ニ長調、4分の3拍子第1曲の動機と同じ音程関係で開始される(ただしリズムは変えている)。
・第5曲 十分に幸せ ニ長調、4分の2拍子「幸せいっぱい」「満足」とも。
・第6曲 重大な出来事 イ長調、4分の3拍子付点リズムが特徴的な曲。第1曲の中間部冒頭の高声音型が含まれている。
・第7曲 トロイメライ(夢) ヘ長調、4分の4拍子作曲者のピアノ曲の中で最も有名なもののひとつ。各種楽器用に編曲も幅広い。中声部に複雑な和声進行をすることで幻想的な音響を形成するのは作者の常であるが、曲想と一致していて最も効果をあげた作品。4小節の旋律が上昇・下降するが、これは8回繰り返される。
・第8曲 暖炉のそばで ヘ長調、4分の2拍子「炉端で」とも。第7曲と同じくハ音からヘ音の4度跳躍で開始するが、主題を構成する動機そのものが同じである。
・第9曲 木馬の騎士 ハ長調、4分の3拍子シンコペーションと3拍目のアクセントによる。
・第10曲 むきになって 嬰ト短調、8分の2拍子
原題を直訳すると「ほとんど真面目すぎるくらい」である。前曲と同じくシンコペーションのリズムが旋律の形成の中核を担っている。
・第11曲 怖がらせ ホ短調、4分の2拍子「おどかし」とも。A-B-A-C-B-Aの6つの部分からなる。感傷的な旋律の遅い部分とスケルツォ風の速い部分が交互におかれる。
・第12曲 眠りに入る子供 ホ短調、4分の2拍子ゆったりとした動きで開始し、中間部はホ長調になる。なお第12曲はワーグナーの楽劇『ヴァルキューレ』の「眠りの動機」と類似していることが指摘されている。
・第13曲 詩人は語る ト長調、4分の4拍子ここで言う詩人とは作曲者のことを指す。最後の7小節の和音は第1曲の中間部の右手の動機からとられている。
ボンのアルター墓地にあるシューマンと妻・クララ(1896年死去)の墓(筆者撮影)
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