【Z・CD特別情報 13】
ヴィオラの秘密と魅力
~万華鏡のような音色・弦楽器のカメレオン〜
先ず、ヴィオラという楽器についての薀蓄を少々。
ヴィオラの調弦は中央ハ音のすぐ上のイ音から、完全5度ずつ下に向かって、ニ、ト、ハである。
この調弦はヴァイオリンより完全5度低い。
チェロより全体に1オクターヴ高い。
以上が簡単なヴィオラの調弦の紹介である。
私はヴァイオリンを弾くので、ヴィオラも勿論弾ける。弾けるというのは正しい表現ではない。正しくはヴィオラの譜面をヴィオラで弾くことは出来るが、ヴィオラ本来の音色は表現できない。
ヴィオラで特に難しいのは一番低い「ハの弦」を弾く時である。ヴァイオリンに限らず弦楽器の弦は調弦が低くなるほど弦は太くなる。
ヴァイオリンには「ハの弦」はない。それが大問題である。
ヴィオラの「ハの弦」と左指と弦のふれあいが,弦が太いのでヴァイオリンのようになじまないのである。
ヴィオラの「ハの弦」を初めて引いたときは、「ゴーゴー」と鳴って、楽器が壊れたかと思った。
ヴィオラをはじめから勉強する方は日本では少ない。ヴァイオリンを弾いていてヴィオラに転向する方が多い。だから楽器が壊れたのではないかというような経験をされた方も多いと思う。
しかし、ヴィオラという楽器は魅力的である。それをヴィオラ奏者でもあったパウル・ヒンデミットのヴィオラ作品で伝えようというのが今回の紹介CDである。
ヒンデミット(1895-1963)ヴィオラ作品全集第1集~ヴィオラと管弦楽のための作品集~
ヴィオラ T.ツィンマーマン(SACD)
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ヴィオラの名手、タベア・ツィンマーマン。
ヴァイオリン・チェロを弾いていた兄弟の影響を受け、習った教師の勧めで3歳からヴィオラを始める。ヴィオラ奏者の場合、最初はヴァイオリンを習い、途中でヴィオラに転向する場合がほとんどである(前出)ので、タベア・ツィンマーマンは、子供のときからヴィオラを弾いていたという「超」がつくめずらしいヴィオラ奏者である。
ちなみに、ヴァイオリンには子供用に四分の一など小さな楽器はあるが、ヴィオラでは子供用のヴィオラとは聴いたことがない。多分あるのだろう。また大人が弾くヴィオラでもサイズはいろいろある。大きいヴィオラからヴァイオリンをちょっと大きくしたヴィオラまで多種多様である。これもヴィオラ、あれもヴィオラである。オーケストラのヴィオラをよく観察するのも面白い。ツィンマーマンは13歳でフライブルク音楽大学にてウルリヒ・コッホに師事し、その後、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院でシャーンドル・ヴェーグにヴァイオリンを学ぶ。1982年、16歳でジュネーヴ国際音楽コンクールのヴィオラ部門で第1位となった。翌1983年にパリのモーリス・ヴュー・ヴィオラ・コンクールで、また1984年にはブダペスト国際音楽コンクールでも優勝し、19歳でザールブリュッケン音楽大学の教員となり、21歳で当時ドイツ最年少教授に就任した。
紹介CDはパウル・ヒンデミットのヴィオラ作品の第1集
《収録曲目》
【白鳥を焼く男】
曲名は、終楽章が「あなたは白鳥の肉を焼く人ではありませんね」という民謡を原曲としていることに因んでいる。古い民謡の旋律によるヴィオラと小管弦楽のための協奏曲という形式。
楽譜のタイトル・ページには、ある吟遊詩人がにぎやかな宴でその音楽を披露。彼が遙かなる地で見つけてきたという音楽には、真面目な歌や楽しい歌、そして踊りのための音楽もあるという具合。
ヴァイオリンとヴィオラを含まない小オーケストラ(フルート2(うち1つはピッコロ持ち替え)、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン3、トランペット1、トロンボーン1、ティンパニ、ハープ1、チェロ4、コントラバス3)と、ヴィオラ独奏の組み合わせ。
吟遊詩人の役割を担うヴィオラの表現は雄弁で、民謡からフーガまで盛り込んだヒンデミットの作曲の面白さを堪能させる。
各楽章には以下のタイトルが付されている 。
第1楽章:「山と深い谷の間で」
第2楽章:「さあ、親愛なるリンデンの樹よ」
第3楽章:変奏曲「あなたは白鳥の肉を焼く人ではありませんね?」
【葬送音楽】
弦楽オーケストラと独奏ヴィオラのための作品。1936年、ヒンデミットは『白鳥を焼く男』英国初演のためロンドンに滞在したが、初演当日、国王ジョージ5世の崩御により演奏会は中止となった。しかし、共演予定だったエードリアン・ボールトからの要請もあり、ヒンデミットは、国王ジョージ5世の死を悼む音楽の作曲に取り組む。
ヴィオラ特有の「しっとりとした嘆き節」と、どこかオルガンを思わせる弦楽により、「哀悼の音楽にふさわしい仕上がり」となった作品で、最後の第4楽章でのバッハのコラール「汝の玉座の前へと我は共に歩まん」の引用も聴きどころである。【室内音楽第5番】
ヒンデミットがヴィオラと管弦楽のために書いた最初の作品で、作曲、初演は、1927年、ヴィオラ独奏がヒンデミット、指揮はクレンペラーという組み合わせであった。【ヴィオラと大室内管弦楽のための協奏音楽】
初演は、1930年、ヴィオラ独奏ヒンデミット、指揮はフルトヴェングラーという組み合わせでおこなわれた。(以上HMVから引用)
そして、もう一枚のCDは
ヒンデミット・ビオラ作品全集第2集
ヴィオラ&ピアノとヴィオラ独奏のためのソナタ集(SACD)【ヒンデミットのヴィオラ作品】
第一次世界大戦に従軍し、無事帰還したヒンデミットは、ヴィオラ奏者として活動し作曲もおこなっていた。第1弾としてリリースされたのは、ヴィオラと管弦楽のための作品集。個性派エンジニア、シュテファン・カーエンが設立したミリオス(MYRIOS)は、音質にこだわるレーベルだけあって、ベルリンのダーレムにあるイエス・キリスト教会でセッションを組んでのレコーディングもきわめて高水準である。ハイブリッドSACDでのリリースである。
特にヴィオラの音色は多様に表現されており
ヴィオラの楽器の音色は万華鏡のようである。ある時はヴァイオリンのように、ある時はチェロのように千変万化変質するのである。まるで、弦楽器のカメレオンである。
【収録情報】
ヒンデミット:
Disc1
・ヴィオラとピアノのためのソナタ Op.11 No.4 [1919]
1. Fantasie
2. Thema Mit Variationen
3. Finale Mit Variationen・無伴奏ヴィオラのためのソナタ Op.11 No.5 [1919]
1. Lebhaft, Aber Nicht Geeilt
2. Mäßig Schnell, Mit Viel Wärme Vorgetragen
3. Scherzo: Schnell
4. In Form Und Zeitmaß Einer Passacaglia・無伴奏ヴィオラのためのソナタ Op.25 No.1 [1922]
1. Breit
2. Sehr Frisch Und Straff
3. Sehr Langsam
4. Rasendes Zeitmaß, Wild. Tonschönheit Ist Nebensache
5. Langsam, Mit Viel Ausdruck・ヴィオラとピアノのためのソナタ Op.25 No.4 [1922]
1. Sehr Lebhaft, Markiert Und Kraftvoll
2. Sehr Langsame Viertel
3. Finale: Lebhafte ViertelDisc2
・無伴奏ヴィオラのためのソナタ Op.31 No.4 [1923]
1. Äußerst Lebhaft
2. Lied: Ruhig, Mit Wenig Ausdruck
3. Thema Mit Variationen: Schnelle Viertel・無伴奏ヴィオラのためのソナタ [1937]
1. Lebhafte Halbe
2. Langsame Viertel - Lebhaft
3. Mäßig Schnelle Viertel - Lebhaft・ヴィオラとピアノのためのソナタ(1939)
1. Breit, Mit Kraft
2. Sehr Lebhaft
3. Phantasie
4. Finale Mit Zwei Variationen
録音・演奏ともにA
タベア・ツィンマーマン(ヴィオラ)
トーマス・ホッペ(ピアノ)
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